代打、私
一ヶ月ほど前から話が始まります。
今、私が関わっている料亭のお仕事、その営業会議にて、料亭の名前の入った判子が欲しいと・・・判子と言うよりも落款の類が欲しいと言った話になったのです。
実は我がオヤジ、書と篆刻を嗜みまして、お調子者の私はオヤジの了解も取らずに「うちで何とかします」と言ってしまった訳なんです。で、事後承諾でオヤジに「ちょっとオイラの顔を立てて一つ篆刻をお願いできないかな?」との願いに、渋々ではありましたがOKと返事をもらっておったのです。
で、本日。
この落款の納品日が11/4でして、いまだ何も言ってこないオヤジにやきもきして、ただ・・・こちらが一方的に頼んだ物なので、あまり催促するのは悪いかなと思うのですが、それでも納品が遅れれば料亭の皆にも迷惑が掛かる。ココは「エイヤッ!」と覚悟を決め、オヤジに物申した訳なんです。
「彫ろうと思って、墨書きはしてたんだけれど、老眼が事の外進んでいて、刀(とう)を握ったものの、彫れないのよ」と物凄いショッキングなカミングアウト。今この時期にこんな事の言われても・・・どうしたら良いの・・・。
見れば、落款となる石には、漢字が生まれたばかりの頃の字体「篆文」の鑑文字が墨書きされ、彫り出されるのを今や今やと待っている状態でした。
それをただ眺めていても、石はただの石のまま。ココは一つ、我が模型魂とテクニークで、私がいっちょ彫りだしてやろうじゃあ~りませんか、と決めたのです。
大・中・小、三種の刃先の刀を手に取り、息を止め、ちょっとづつ「カリ、コリ」とオヤジの文字を削り取らないように篆刻を行います。
時々、休み休みやらないと、集中力と視力が続きません。
カリ・・・・コリ・・・カリ・・・
やっと形になり、それに朱肉を付け試し捺し。その印影をオヤジに見せると、鉛筆で「ココが太い。コノ余白の始末が雑。ココの線はもっとシャープに」と、駄目出しです。
そして、其処を修正しては試し捺し→駄目出し→修正→試し捺し→駄目出し→修正そんな事を何度続けたのでしょうか(遠い目)。
そんなこんなでやっとの事OKが出ました。
そして私が彫りの代打として篆刻をしたのがこちら。
これで「有隣」って書いてあるんです。「オイオイ、左右が逆じゃないのか?」って思いますよね。最初、私もそう思いました。でもこれ正しいのです。ちゃんと「篆刻辞林」っていう本を原典としています。
ただ、そのままちゅー訳でもなく、ちょっとオヤジ流のアレンジも入っているのですが、「それは書&篆刻をやるものとしてのセンスの試し処だから譲れない」との事でした。
とにかく私は、何とか納期前に間に合った事が一番ホッとしています。
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コメント
いいなぁ~、、ホントに羨ましい。
この父にしてこの子有り。母もね(笑)。
長生きしてくださいよ。
投稿: yo | 2010年10月31日 (日) 23時04分
月のコケ具合がよろしいなあ。
でも、読めん。
投稿: tatara | 2010年10月31日 (日) 23時20分
yoさま
偏屈、器用貧乏一家です。(笑)
でもこんなレベルじゃお金はもらえないのよね。
手を動かして、何かを作り出すことに喜びがあるんですヨ。
マジで。
tataraさま
この「有」の字はほとんどそのままの古代の「有」の字です。
「隣」の字はちょっと前まで「鄰」のこの字を使っていて、これが篆文の元になっています。
ただこの字の旁の下側に、ちょっとオヤジアレンジが入っています。
投稿: 松永 | 2010年11月 1日 (月) 16時06分
なるほど こんなこともやってたんだ
イー感じじゃないですか
私も昔自分のやつ彫ったことありますが
切羽詰れば なんでも出来る・・・!?
投稿: TERU功山 | 2010年11月 5日 (金) 23時16分
TERU功山さま
切羽詰ると言うよりも、まあ手慰みのたぐいですヨ。
模型の技術が、こんな感じで恩返しをしてくれました。
投稿: 松永 | 2010年11月 7日 (日) 20時29分