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2009年3月 3日 (火)

フラッシュバック

船場汁

 関西では、若狭湾でとれた鯖を背開きにし塩をあて、それを天秤棒に担ぎ夜通しかかって鯖街道を京都、大阪を目指して運んだそうです。その大阪の問屋街「船場」では、この塩鯖の身の部分を調理し終わった残り物のアラ(中骨や頭)を、大根と一緒に煮て薄口醤油で味を調えた汁が、船場に奉公する丁稚どんの賄(まかな)いとして食されていた事より、船場汁と呼ばれたそうです。

 この週末を悩ませた事、それは土曜日の稽古後、師と二人で道場の階段を下りていた時の師のこの一言よりはじまります。

 師:「京都ではお前が使太刀でいくぞ。」

 私:「え゛っ・・・先生、私は打太刀じゃないんですか?」

 師:「いつまでも私が使太刀って訳じゃいかんだろ。そういった大舞台で場数を踏むのも勉強!」

 この会話がどういうことか説明いたしますと、型稽古は使太刀、打太刀といった役割分担があって進んでいきます。簡単に言えば、役どころとして使太刀が殺す側、打太刀が殺される側と考えてください。稽古の時は上級者が打太刀となり、使太刀を教える事でその流派の剣術を教えていくのです。

 ただ演武となると話が逆となります。その流派の肝は、殺す役どころの使太刀なのです。(主役が死んじゃ意味が無いですもんね)技を演武等で披露する時は上級者が使太刀を演じるのが、そりゃ演武の見栄えが良いってもんです。今回の舞台は京都武徳殿での全日本剣道演武大会です。いいですか全日本ですよ全日本・・・こんな大舞台なので勝手に打太刀だと思っていたんですよ・・・土曜日までは。

 上記の会話の最中、料亭の経営をされているGUZZI仲間と交わした数年前の会話が脳内にフラッシュバックしてきました。

 それは彼の若かりし頃、調理師として京都の料亭での修行中の時のお話です。

 皆さんも知っておられると思いますが、この世界は「追い回し」から始まって「揚場」、「焼方」、「煮方」、「立板」、「花板」と言った純然たるヒエラルヒーの世界。ひとつ上のランクに上がるチャンス「お前、これやってみろ」と声がかかった時に、そのチャンスをモノにできるように毎日が本当に気が抜けなかったと、電話口でシミジミとお話していただきました。そして、その修行時代、賄いとして作っていたのが、鯖ではなくグジ(アマダイ)のアラで作った船場汁だったと事・・・。

 稽古後の師の一言によって、急に思いもよらない記憶の引き出しが開いたこの感じ。本当に瞬間的に数年前の会話が100倍速再生って感じで数秒のうちによみがえりました。

 そしてこの数秒間のフラッシュバックの後、師に対して「はい」と使太刀をすることを答えながら頭の中は、「後二ヶ月・・・たった8回の週末の稽古日、5月2日までに仕上げるには・・・」と考え始めれば、どんどん煮詰まっていく私なのでした。

 ちなみに雖井蛙流平法が鳥取の地を離れて人目に触れるのは十数年ぶりの事だそうです。

 この一件で「船場汁を作ってみようかな」なんて企み始め、オヤジが物凄く大切にしている蔵書、辻留の辻 嘉一氏著 “懐石傳書”「椀盛」の巻、「船場汁」の項目を盗み読みするのであった。

 その調理過程はまた別のお話で。
 

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コメント

サバと聞いてへしこを思い出す私。。。
お茶づけに酒の肴に最高の一品です。
船場汁もこれで作ったり。。。
煮詰め過ぎは禁物です。。。。。(笑)

投稿: VCE | 2009年3月 3日 (火) 23時45分

VCEさま
へしこは鳥取のあたりでは鰯の方が一般的です。
オヤジは大好物ですが、私には塩辛すぎて、食べられないほど嫌いって訳ではありませんが、そんなに好きじゃないんですよ。

投稿: 松永 | 2009年3月 4日 (水) 01時33分

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