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2008年9月12日 (金)

仕事中の本当にステキな出来事

 昨年の七月に書きましたエントリーで紹介したこのお屋敷。今年も仕事で伺う事になりました。

 今年は今年で、通された客間の床の間にかかっている掛け軸を見てびっくりして固まりました。

 仕事を忘れて見入っていると、奥様が「わかります?」と。

 来迎図(らいごうず)です。

 そこには光背を背負った阿弥陀如来、如来を中心に向かって左側に合掌する勢至菩薩、右側に蓮台を両手で捧げ持つ観音菩薩を従えております。ちなみに来迎図と言うのは、臨終に際して阿弥陀如来が極楽に導いてお迎えに来られる様を描いた画です。

 こりゃ仕事をやっている場合じゃないです。

 私の記憶が確かなら、このような来迎図は平安中期~末期、末法思想がこの世を覆いつくしたこの時期によく描かれたと記憶しています。奥様に「何時頃のものなんですか」と問えば、「正式な鑑定はしてもらってないんですが、鳥取博物館の学芸院の先生によると、室町時代までは確実にさかのぼれるとの事です。ただ家訓で門外不出なんです。家から出せないので、正式な科学鑑定とかは出来ないんです。去年亡くなったおばあちゃんが、この画ををとてもとても大切にしていらっしゃいました。今年はそのおばあちゃん初盆なので、盆からお彼岸までは、おばあちゃんの為に、こうやってこの掛け軸を掛けて上げようって事で掛けているんです。松永さんは運が良いですよ。普段は絶対掛けていないんですよ」と。

 背広のポケットからハンカチを出し、其れを口元に添え、正座をしてにじりながら床の間ギリギリまで近付かせていただき、この画のディティールを、脳の皺に刷り込むか如く凝視します。背景はこの画の歩んできた長い時間のため黒ずみ、仏さんの顔の胡粉の白もそこかしこが剥落しています。衣の輪郭線やその模様、光背から延びる後光は、金箔を細く(見た所0.2mm程)切り、其れを膠でとめる截金(きりかね)細工といった方法で描かれています。金は酸化致しません、未だにその截金細工の部分で描かれた細かなディティールは、キラキラと光りながら作られた600年前(室町期の物として)の様相を伝えてきます。

 この画の前で小一時間・・・私を昔からよく知る人が言う所の「あ~また貼り付いたよ」って言うあの状態です。勿論、写メであるとか写真なんて無粋な事は絶対NGです。こういったものは自分の記憶に刻み込むのです。

 ちなみに仕事の方はちゃっちゃと5分で済ませて、ずっと画を拝見させてもらっていました。

 日頃より、東京に居た時と、田舎の帰ってからの最大の生活の違いは、絵画や音楽の本物に出会う機会が全く無くなるって事と言ってきましたが、よもや鳥取の山の中の旧家で、このような一級品の仏画をこの目で見る事が出来るとは・・・ただ今、余韻で、ちょっと呆けております。

 こんな仕事先なら山奥だろがなんだろうが「なんぼでも来い」です。 

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コメント

素晴らしいですね

読んでいるだけで感動してしまいました

投稿: TENGA 感想番長 | 2008年9月12日 (金) 00時44分

番長閣下
わ~んつД`)・゚・。・゚゚・*:.。
このHNはいろんな意味で人をがっかりさせるのでヤ・メ・テ。

投稿: 松永 | 2008年9月12日 (金) 16時46分

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