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2007年2月10日 (土)

においが目に沁みる

 さてさて、この一週間を、「買ったまま読んでいない、枕もとの書籍をやっつけよう週間」と位置づけ、忙しい時間の合間に読書に勤しんできました。まあ本を読むこと自体、好きな作業なのでずいぶん楽しんでいます。

 その中の一冊“香水 ある人殺しの物語”を読み始めました。ちょっと皆様に粗筋をお教えしますと。

 「神がかり的な嗅覚」という、天賦の才を授かってこの世に生まれ落ちた主人公ジャン=バチスト グルヌイユ。後に調香師となり全ヨーロッパを魅了する香りを紡ぎ出していきます。しかしその調香師といった表の顔の裏に隠れているものは・・・って言う感じです。面白そうでしょ?いや実際面白いんですよ、この本。な、なんと映画化されて春には日本公開のようです。この事が、この本が去年の年末から枕元に置きっぱしていた私のお尻を叩き、急いで読ませる動機のひとつになったのは事実です。

 実はこの作品を読み始めて、数ページをめくった時、思わず「ニヤリ」としました。それは、この小説の舞台となる18世紀のパリの状況を説明している物語の導入部分です。下記にちょっと引用してみました。ここで私は「ニヤリ」とした訳なのです。

  これから物語る時代には、町はどこも、現代の私達にはおよそ想像もつかないほどの悪臭に満ちていた。(中略)百姓とひとしく神父もくさい。親方の妻も徒弟に劣らずにおっていた。貴族は誰といわずくさかった。王もまたくさかった。悪臭の点では王と獣と、さして区別はつかなかった。王妃もまた垢まみれの老女に劣らずくさかった。

 これが何で「ニヤリ」なの?って言う声が聞こえてきそうです。実はこの本を読む二週間ほど前に、私の知人の方で、この現代の私達にはおよそ想像もつかないほどの悪臭を体験され・・・いや悪臭何処ではない状態を体験され、その時の事を、東洋蘭の馨のする紅茶を頂きながら面白おかしく話してもらったのです。

 その方は50代のお歳とお見受けします。その方がまだ若かりし折、趣味の山岳トレッキングで北インド、ネパール辺りを放浪していた時の出来事です。

 こういったトレッキング時に、とある集落を治められている族長さんに大変気に入られ、もてなしを受ける事となったのです。さっきまでその辺で「メェ~メェ~」と啼いていた子羊を客人に馳走するため潰し、その肉を岩塩を入れたお湯で塩茹でにするシンプルな料理だったそうです。この人たちにとって見ればこの料理は、普段の生活では決して口にする事無い、将に「ハレ」の食卓なのだそうです。

 食事も終わり、その日はこの族長さんの家にお泊りする事となっていたのですが、この食事の後に事が起きました。娘をその日の夜伽に出すというのです。その方からその話を聞いた時、「へぇ~人の分布がまばらなそういった山岳地帯は、コミュニティーの血が濃くなるのをヘッジするために、族長の認めた賓人(まれびと)の血をもって集団を健全に維持をしているんだ。京極夏彦の小説“絡新婦(じょろうぐも)の理(ことわり)”に出てきた室町時代前のまで行われてきた日本の招婿婚と同じだ」なんて感心しながら話を聞いていると。「でもね松永さん、駄目なんですよ。特に無菌室育ちの日本人には・・・」と続いたのです。

 ともかく、標高が高く気温も低い、集落に流れている川も氷河の溶けた鉛色の水。しかも四季を通じて冷たいときています。水浴びや入浴の習慣なんて無いそうです。もう判りますね。人間が物凄くにおうんです。その娘さんの顔立ちは、アーリア系のパッチリとした目鼻立ち。しかーし部屋に一緒にいるだけでホントに涙が出てくるくらいの臭い。「元気になるもんも全然駄目!!そんな状況じゃないですよ!!」と、そして何も無いまま朝を迎えると、これを読んでいる皆さんの予想通り、一悶着が待っていたのです。

 昨晩の状況は娘さんからの報告で耳に入っている族長、会うや否や「オマエはコレか?」とオカマちゃんを意味する所作をされたそうです。「違います」と否定をするやいなや、やおら腰に下げている湾曲した刀を抜き「オマエは一族の名誉に泥を塗った!そんな役立たずなモノは切り落としてくれる」と抜刀したまま怒髪天を突く真っ赤な顔をして凄まれたそうです。 「今、こうやって話すと、笑い話ですがね~」とお笑いになっていますが、その後この状況を、どうやり過ごされたのでしょうか・・・?そこまでは話していただけませんでした。

 最後に私に言い含めるように「でもね本当に人間って臭いんですよ」と言われていました。

 この本を読みながら、二週間前の喫茶店の話が思い出され、思わず「ニヤリ」としたわけです。この読書中に私の鼻腔によみがえったにおいの記憶は、私が未だ嗅いだ事の無い「あの人間の臭い」なんかじゃなく、その話を聞きながら頂いていた紅茶(多分、そんな人たちが摘み取っている茶葉で作った)の、醗酵と書くのも憚られるほど素晴らしい東洋蘭に似た馨でした。

 

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