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2006年10月16日 (月)

擬音の妙

 このBlogでも何度か紹介した、武将茶人・古田織部を主人公とした山田芳裕氏の漫画「へうげもの」。その中で「この作者はここまで・・・」と、それを見つけた瞬間、私が溜息をつかずにいられない発見を再びしました。

 それには少し時間をさかのぼります。丁度このエントリーを書いた時の事です。

 我が剣術の師より、私を含め(私は以前より注意されていたのですが)小太刀を打った女性陣に足運びについてアドヴァイスがありました。

 簡単に言うと「歩幅が広い」との事。剣道では右足が前、左足が後といった決まりごとがあるのですが、我々が行っている古流の剣術はそんなことはありません。「歩み足」といって左右の足が一見普段通りに交互交互に前後するの足捌きとなっています。ただ一見と書きましたのは、師の言葉を借りると「一歩の足運びが現代の『歩み』のそれとは違います」と為るからなのです。

 私の拙い文章で説明するとこうです。先ず右足が前に出るとします。右足が前に出るとすぐ、支えの左足が右足の左後に「スッ」とくる。そしてその後左足が前に出ると、支えと為った右足が左足の右後に「スッ」と。つまり二つの動作を途切れることなくワンアクションで行えと言う事なのです。この支えの後ろの足が一番大事だとの事。「これが出発地点に残って付いてこないと腰が引けた状態になり、腰が入らないから振り下ろした腕がスタックして間合いが短くなる。それが斬り合いになると、足運びがちゃんと出来ている相手の刃が届くのに、自分の刃が相手に届かなくなるんです」と。そして最後に師は「私がガキンチョの頃、オヤジに竹刀でぶたれながら教わったのは、足運びの時、前から見ても、後ろから見ても、決して足の裏が見えるような足運びは駄目と言う事です。そうなると歩幅も現代より狭くなりますね。今回は女性もいるので解りやすい喩えを言うと、ズボンやスカートを穿いて生活している足運びをするから、和服を着たときに着崩れるのです。鼻緒の付いた下駄や草履を履いて、和服を着ていたかつての日本人の歩みを考えてみてください、こういった歩みなのではないですか?古流とはそういった動きが大切なんじゃないですか」と、本当に丁寧な説明がありました。

 そんなことがあってからしばらく経ったある日、先に書いていたように、漫画「へうげもの」を読んでいて気がついたのが、屋内での歩みの時に付けられている、足音の擬音なのです。

 この本をお持ちの方はよーく観察して欲しい、この作家、必ず屋内での歩みの擬音を「ズタッズタッ」と表現してあるのです。これは先に述べた、歩幅を狭目にとり、摺り足気味に歩くその足音に聞こえないでしょうか?板の間で古流の歩み足をしながら、耳を澄ますと確かにこのような擬音表現もありだと思うのですが・・・皆様はどう思われますか?単なる私の思い過ごしでしょうか。TVの時代劇はもとより、比較的時代考証がちゃんとしているであろうNHKの大河ドラマですら、そこまで踏み込んだこだわりというか、そのようには為っていません。

 それを、静止画でしか見せる事のできない漫画で、「ズタッ」という擬音表現で表しているとすれば・・・だって、こういった意図がない限り、屋内の歩みの擬音なんて、それ自体を一々つけないと思うんです。この漫画家の確信犯的なことに思えません?

 この漫画家・山田芳裕氏は只者ではありますまい。この時代の日本人を描こうと必死になっているのが読み手に伝わってきます。

 古流をやっていて気付く、「へうげもの」のこだわり・・・こんな「こだわり漫画」が面白くない訳が無いのです。

 しかし、何処まで楽しましてくれるのか、皆も、この小さな一コマの中に内在する、作者よりの挑戦を受けて立とうではないか。

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コメント

はじめまして、鳶といいます。
いきなりで不躾な質問なのですが、

管理人さんは雖井蛙流をやってらっしゃるということですが、
槍術は併伝しているのでしょうか?

投稿: 鳶 | 2006年10月20日 (金) 10時51分

鳶さま
はじめまして。
お伺いの「槍術は併伝しているのでしょうか?」の件ですが、残念ながら雖井蛙流平法は太刀と小太刀のみで槍術はありません。
私の知る限り、この鳥取で、槍術をたしなまれる方の事は聞いたことがございません。
薙刀の天道流をやられておられる方はいらっしゃるのですが。
毎土曜日に稽古があり、このBlog上にて土曜日~日曜日にかけて私一人の反省会が記事としてUPされます。
未熟な自分に凹みまくりですが、何とか術を極めんがための七転八倒の様子をご覧下さい。

投稿: 松永 | 2006年10月20日 (金) 15時09分

そうでしたか・・・
大学の研究の一環で調べているのですが、
手元に「槍術範士松田秀彦」というのがありまして、
著者が山根幸恵先生。その先生が太田義人先生、
その先生が疋田流槍術で著名な松田秀彦範士ということなので、
もしや失伝流儀が、と思い(ミーハー心で;^^)書き込ませていただきました。失礼しました。

それにしても雖井蛙流が現存していたということに驚きました。
非常に興味深いですね。
これからも拝見させていただきたいと思います。

投稿: 鳶 | 2006年10月20日 (金) 23時30分

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