ジンさんの呟き
・・・昨日のつづき
フリー走行の終わったピラニア号を冷やすため、外装を外し風通しの良いところに置きます。
先ずオイルを交換します。出てきたオイルを捨てる時、異物のチェックは欠かせません。今回は何も無いようです。オイルレベルゲージを見ながら新しいオイルを注ぎます。常温のオイルで、ちょっとでも早くエンジンを冷やそうと言う作戦でもあります。
点火プラグも新品に交換です。付いていたプラグの焼け具合を観察すると、綺麗なキツネ色です。ただ電極の細いイリジウムプラグを使用しているので、このプラグの特性上、白金を電極に使った通常のレーシングプラグよりも、最適空燃費時に白く焼けるのを考慮しなければなりません、この焼け具合ですと、全域で最適よりもちょい濃い目でこちらの狙い通りのキャブレーションです。
しばらくして、エンジンが冷えたのを確認してヘッドの増し締めです。ヘッドのガスケットは三枚重ねのメタルガスケットなので、ヘッドガスケットだけの交換でしたら、メタルガスケットは熱痩せしないので、増し締めの必要ありません。しかしシリンダーブロックを交換した時に、紙製のベースガスケットを交換しています。ここが熱痩せするのです。そうなるとスタッドボルトの締め付けの管理トルクが変わり、これを規定トルクで増し締めして校正すると、今度はヴァルヴクリアランスが変わります。なので増し締め+クリアランスの再調整が必要となったのです。
これで決勝出走前の、私が納得する全てのメンテが終わりました。時間となりましたので、ライダーズブリーフィングに出席し、ルマン式のスタート方法の注意事項を聞き、決勝に備えます。
PM3:00終に決勝です。今回はエントリー順のスターティンググリッド、ゼッケン番号の10番手です。サイディングラップに第一ライダーの無茶士さんが出て行く時、二回目のキックでエンジンが掛かりました。「幸先良いかも?」10番グリッドで無茶士さんが帰ってくるのを待っていると、真っ先に帰ってきました。「ホンマ元気やねこの人!」マシンを預かり、第一ライダーはコース反対側のライダーズサークルに待機です。
無茶士さんは体力温存のためか、スタート練習用のカウントダウンも体育座りしたまま動きません。そんなこんなで本番の10秒前からのカウントダウン開始です。アナウンスの「3・・2・・1・・スタートッ!!!」の号令でライダーがコースを斜めに横切り、マシンに跨りエンジンを掛けて飛び出していきます。我々のチームは・・・キックでエンジン掛かりません・・・「あ゛~」コントロールタワーからグリーンフラッグが振られました、押し掛けOKの合図です。「無茶士さん、押し掛けしますよっ!無茶士さん!!」叫んで腰を叩くのですが、頭に血が上ってキックペダルを必死に蹴飛ばしている無茶士さん、私の声に気が付きません。「いきますよっ!」の絶叫にやっと気が付かれ押し掛け二回目でエンジンに火が入り、やっとスタート、その時、もう80台以上が第一コーナーに消えていました。前途多難です。
1ラップしてコントロールライン上に帰ってきました。10数台捌いて70番台です。2周目60番台までポジションを上げてきました。出走前の作戦では、マシンに慣れているオーナーの無茶士さんが35~40分走って、残りを第二ライダーの私が走る事となっていました。
20分を過ぎた頃、順位的には60位を切った頃です。ピット前を「ピットインする」の合図を我々に送る無茶士さん!!ええっ10分以上早いやん!急いでヘルメットを被り、グローブを付け無茶士さんの到着を待ちます。車両ピットイン中の注意を促すための「フォォ~ォ~ン」のサイレン音をバックに赤白ツートンのマシンが帰ってきました。
規則では、ライダー交代時に一度エンジンストップをしなくてはいけません。無茶士さんが跨ったままエンジンを切り、再び直ぐキックされるのですがやはりエンジンが掛かりません。「三速に入れて」と私が叫びマシンを譲り受けピットを少し押してもらいクラッチミート!「バウッ!バッバィーンッ!」とエンジンがかかりピットアウトです。
さてちゃんとレースをしながら、このマシンをチェッカーまで持たせるのが私の役目です。頭の中でジンさんの声が聞こえます「メカはマシンを壊しちゃ駄目だ。転倒しちゃ駄目だ・・・」いつものジンさんの口癖です。そう今回の私の役割は、七月に行われるミニモト鈴鹿4耐の為、このマシンのシェイクダウン、トラブルシューティングをやる役割なのです。ここで無茶士さんの愛機を潰したらただのお調子者のアホです。ただの第二ライダーでは無く、メカニックを兼ねているのです。
だからと言って走っている舞台は走行会ではなくレースです。競争をしながらマシンの声を聴いてやらなければいけません。もちろんクラッチレバーの常時指二本掛けはお約束です。
大柄な私にとってこのマシンは、ライディングポジションがきつく、ストレートで伏せると「下を向いて走ろう」になって辛いのです。前を見るために首をそらし、スクリーンから目線だけだ出る位置で伏せてのライディングです。膝の外側に肘が被さる感じに身体を折り畳むのです。
9000rpmのレヴリミットが無くなり、12000rpmまでのお許しが出ているのですが、10500rpmを超えると、ヘッドから小さな金属の打音のようなメカノイズがします。ヤバイと判断して、決して10000rpmを超えないようにしてシフトチェンジを繰り返します。
あと登りの厳しいアトウッドコーナーの進入は四速ですが、そのまま四速で走り続けているとコーナー途中の坂で、あまりの高負荷にノッキング音(エンジンの悲鳴)が出ます。音が聞こえると直ぐに三速に落としエンジンの得意な回転数で坂を登ってやります。次の周回からはノッキングが出る前からシフトダウンします。
日頃のジム通いが功を奏したのか、体力的な不都合は何一つありません。体力的に余裕が精神的な余裕を呼び、ピラニア号を含めた周りの状況がよく分かり、狭いパワーバンドを使いながらレースができています。一つ困った事は、右ステップが過去に無茶士さんが練習の時に転倒され、左に比べ短くなっていたのですが、その振動周波数がエンジンの振動と共鳴したみたいで、左ステップはなんとも無いのに、右側だけ電気按摩を掛けられた様に「ビィィ-ンッ」となって、チェッカー数周前から足の感覚が脹脛位まで無くなり、ブレーキペダルを踏んでいるのかいないのか分からくなったのには参りました・・・。無茶士さん本番までにちゃんとした新品に交換しよう。このままだと振動とライダーの体重で金属疲労を起こして走行中に折れる可能性があります。共鳴したソリトン波は破壊力抜群ですよ。
右足を庇いながら、ストレートに入ってくるとチェッカーが見えました。目の前のXR100モタードを抜こうと追いかけていたのですが、あと少しの所で逃げられました。タイムもノルマを掛けられていた2分20秒をちゃんと切ることができました。18秒台だったかな(ちなみに無茶士さんのベストは9秒台)・・・、夜半の岡山国際ERにて処置したエンジンを無事チェッカーまで持たせ、嬉しさよりも責任が果たせた安堵の念で心底「ホッ」としました。
レース結果は総合順位50/83位、クラス別15/29位でした。もう少しスタートがうまく行っていたらと思うと・・・いやいや終わった事は言いますまい。始動性の改善は、これからの改良点の最重要項目です。
無事完走できたおかげで、鈴鹿4耐までにやるべきことがちゃんと分かりました。ここでクラッシュしていたら何も分からなかったです。それらの課題を一つずつクリアして行けば、ただ速いだけではない骨太なモニモト耐久レーサーができるはずです。
今回、貴重なチャンスを下さった無茶士さん、体調がベストな状態ではなかったのに、長距離運転、お手伝いをしてくれたkuwaさん、本当にありがとうございました。
一日経った今でも右足の脹脛は、振動由来の筋肉痛で痛いです。ジムにて相当伸ばしましたが全治まで二、三日掛かりそうです。振動恐るべし!
この週末の頑張りは何気に、脳内ジンさんの呟きが効きました。
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コメント
レースのの仔細は分かった。
ジム鍛錬とやらのおかげで疲れなかった?
しかし機械は騎乗者の重さに耐えかねて登り坂で
悲鳴を上げていたように思うが如何・・・・・
投稿: ムサシ外伝 | 2006年6月 7日 (水) 09時20分