The Long and Winding Road
昨日のPM3:00過ぎ、仕事の最中、私の携帯の着メロ、ビートルズの“The Long and Winding Road”が鳴りました。電話に出てみると電話口から「松永君、ナンバーがつきました。やっとついたよ」と子供のようにはしゃいだ声・・・。思えば本当に『長く、曲がりくねった道のり』を一つ一つ乗り越えて取得されたナンバープレート・・・。
そう、この話をするには、少し時間をさかのぼらなければなりません。
時は1998年の10月、よく晴れた東京の夜、場所は高輪プリンスホテル前、大いなる情熱を携えた男が通訳をお供に、とある交渉に入ろうとしてました。それはまるでこれから風車に立向かうドン・キホーテとサンチョ・パンサの様でもあります。
その人の名は森下 五郎氏。(以下ゴローさん)MOTO GUZZIをいじり倒して幾年月・・・関東近辺でこの方を知らないようではGUZZI乗りとしてモグリと言われてしまうような方です。
交渉の相手は英国の頭脳、ナイジェル・ヒル氏、いや博士号をお持ちの工学博士ですので、ナイジェル・ヒル博士です。彼はF1・ジョーダンチームのサスペンション設計を任されていたモータースポーツ界では超一線級のエンジニアです。
その彼が作り出した革新的なフロントサスペンションシステム“サックストラック”を持つモーターサイクル“SAXON”。(このサスペンション機構は、この後に出たBMWのテレレバーとの関係性を指摘する人も多い。)
そう、ゴローさんはMOTO GUZZIの心臓を持つSAXONの製作をしてもらえないかと、直談判に来ていたのです。もちろんアポなんてありません、「当たって砕けろ」です。今まで自分が行ってきたチューニングに使ったスペシャルパーツ(GUZZIのチェーンドライブユニット等)の図面(ゴローさんが書いた)をその手に携えての交渉です。
いきなり宿泊先に押しかけてきた日本人を前に、紳士的なヒル博士。「あなたはいったい何者だ?」との問いに、「おいらは魚屋だよ」と答えるゴローさん。その答えに博士は「・・・・」となりました。ゴローさんは目の前に持ってきた図面を取り出し、自分のチューニングに対する考え、GUZZIに対する熱い思い、そしてSAXONに恋焦がれている胸の内を語り始めたのです。「どんなことを考えているんだ。レーサーが欲しいのか?」と博士が問へば、「とにかくMOTO GUZZIのエンジンを持った楽しいマシンが欲しいんだ。チューニングはもう散々やった・・・コンプリートで、おいらだけのロードリーガルなマシンが欲しい。それにはどうしてもSAXONじゃなきゃだめなんだ」それは情熱一杯の訴えでした。しかし世の中そんなに上手く事は運びません。まして、オートバイを一台作って欲しいと言うお願いです。当然と言えば当然ですが、その日は色よい返事を貰う事は叶いませんでした。
一回戦は相手にしてもらえませんでした。しかしこんな事で自分の熱い思いをあきらめる訳には行きません。とりあえず自分の考えを再確認するために、SAXON/トライアンフの輸入をした業者のもとを尋ね、そのSAXON/トライアンフを試乗してみたそうです。
その感想は「自分は間違っていなかった」それと同時に「やっぱりSAXONじゃなきゃ駄目だ」と、前にも増してより強く思われたのでした。直球勝負が駄目ならば、回り道でも外堀を埋める作戦に変更です。
SAXON/トライアンフの輸入で、博士と付き合いのあるこの業者さんや、SAXON/ラベルダを所有されていた在日英国人の友人の「つて」を使って、博士に何度も何度もSAXON/GUZZIを作って欲しいと懇願したのです。
ついに熱い思いが通じる時が来ました。やっと博士が作ってくれると約束してくれたのです。さあ賽は投げられました。プロジェクトが動き出したのです。
急いで英国にGUZZIのエンジンを送り、約束していたまとまったお金も用意しました。
その後一年が経ちました・・・何の音沙汰も無いのです・・・不安な日々が続きます。そのまま何の状況も変わらないまま二年目となりました・・・。「やっぱり駄目なのだろうか・・・」そんな思いもよぎったそうです。
それは突然の事でした。その年の秋、英国よりSAXONフレームの設計図面の青焼きが届いたのです。心配していた計画はちゃんと進んでいました。
そしてそこから待つ事さらに一年、世の中が21世紀となったその年の秋、再び突然の出来事が起きました。博士からの電話です。その内容は「完成したのでそちらに送る」!!!ついに完成したのです。
2001年10月、航空便で英国より一台のオートバイのフレームが日本の土を踏みました。
航空アルミニウム合金製パイプを三次元的に組み、時間を掛けて熱処理をされ、溶接時の歪を完全に除去されたフレーム。F1のカーボンモノコックフレームを焼くのに使われる同じオートクレーブで焼かれたドライカーボンのカウリングとシート、前後ホイールのリムまでドライカーボンです。ワンオフで叩かれたアルミ燃料タンク。そしてSAXONのSAXONたり得るサックストラックサスペンション。
もはや工芸品です。
聞けば、「頭の中で練る事一年、それを図面に起こす事一年、そこより製作すること更に一年、だから三年掛かったんだよ」と言われたそうです。しかも全ての作業を、人を使うこと無く、ナイジェル・ヒル博士一人でされたとの事。「人の仕事が見ていられないんだ」と言われる程の完璧主義者なのです。
その時、ゴローさんの目の前には、三年待ち望んだものが全てありました。しかも思っていた以上のすばらしい物でした。他の人にこの時のゴローさんの喜びは計り知れません。
しかし、その喜びの向こうに、超えなければならない、日本の車検制度と言う高い高い壁が待ち受けていたのです。
明日へつづく・・・
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コメント
この話は熱いですな。ひたすらに熱い。
続編を楽しみにしてます。
投稿: zuka | 2005年11月17日 (木) 07時57分
あついなぁ。
続きが楽しみです。
なんか、そそられますねぇ。
僕の理想にちかいです。
まだ免許のなかった頃、
オートバイの科学
http://item.rakuten.co.jp/book/9992/
これ読んで夢みてました。
でも、勉強できなかったのでその道はあきらめましたけど。
投稿: ocboo | 2005年11月17日 (木) 11時25分
TBさせていただきました。
いつまでも憧れを現実とするような
気持ちを忘れずにいたいものですね。
投稿: Vib | 2006年4月18日 (火) 23時20分