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2005年7月 7日 (木)

The God Father

 私の伯父の処に仕事で伺う用事がありました。

 朝一でご自宅を訪問し、仕事の方はサクサクっと終わり、抹茶をご馳走になっている時、「僕もだいぶ歳を取ってしまい、今まで大切にしていたコレクションを、生きてまだ頭がシャンとしているうちに、物の良し悪しの判る人間に形見分けしたい。」という申し出があったのです。

 私が『物の良し悪しが判る人間』かとどうかは本人には良くわかりませんが、そう言われた事はちょっと評価されたようで嬉しく思いました。

 この伯父はかつて百貨店の外商部長をやっていたこともあり、彼こそ『本当に物の良し悪しが判る人間』であり、その伯父が心を砕いて集めていたのが、焼き物、特に小品のぐい呑みのコレクションです。

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 コレクションの中より二つ選びなさいとのこと、一つ目にまず選んだのは、谷口良三作の『柿天目』のぐい呑みです。見た目は熟した柿の実の緋色をしていますが、日光にかざすと赤紫色の色が出、まるで熱帯の甲虫の羽の色のようにギラリと輝きます。飲み口の部分が波型に強弱が付けてあり、優雅な立ち姿をしています。前に見せてもらった時に「良いですね。」と言ったのを憶えてくれていたようで、桐の箱の蓋のところに「法くん」と書かれた付箋を貼っておいてくれていました。伯父も先ずこれを、と思ってくれていたのでしょう。

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 二つ目は、まるで雪をかぶったような半透明の青みががった白い釉薬がぽってりと掛かった美しい志野焼きと、耀変の掛かった天目との間をさんざ悩んだ挙句、鈴木健司作『油滴天目』を選びました。釉薬の正面に浮かぶ油を垂らしたような耀変の輝きが見えますでしょうか?

 かつて伯父の家に遊びに行った時には、先代の六代・清水六兵衛先生と懇意だった話、そして、なぜぐい呑みが好きか話をしてくれました。「小さいものを作る方が技術的に難しいのだよ。生地の薄さ、釉薬のかけ具合、高台の削り具合、全てがぎりぎりの緊張された処に小品の美しさがある。」と、好きなぐい呑みを手に、愛しむようにそれを見ながら、そう私に教えてくれたものです。「無理をして出来る範囲なら良い物を選べ、だが皆が言う『良い物』、値段が高いから『良い物』というのに騙されないで。なぜそれが良いかという事、その「なぜ?」の気持ちが無いと駄目だよ。一生勉強です、自分の中にちゃんとした基準を作りなさい。」

 伯父といっても母の姉の旦那なので、血が繋がっているわけでは無いのですが、この伯父とはなぜか馬が合い、よく話をし、いろんなことを教えてもらえたのです。

 幼少の折より、普通の人には考えられないような苦労をし、兵隊として戦争を経験し、戦後は百貨店の外商部長として鎬を削り、退職後はボランティアとして点字翻訳の活動。人に対して物事をズバッと言ってしまう処がありましたが裏表の無い性格の現われであって悪意は無く、私にとっては映画“ゴッド・ファーザー”の「Don Vito Corleone」のような存在の人物です。

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 かつて模型の展示会で掌に乗るほどの大きさの、イタレリ1/72シャーマン戦車を作ったことがありましたが、それはこの伯父の「小さな物の中にこそ、本当の緊張した美しさがある。」の一言が製作動機といっても過言ではありません。

 いとおしみながら集めたコレクションを渡す時、伯父はどういった思いでそれを私に託したのでしょうか?本当に私でよいのですか?まだ人間として私のレベルが物に負けていませんか?

 そんなこんなを考えると、貰った側としては身の引き締まる思いです。

 だって人間はいつか死んで塵芥となる定めですが、大切に扱えばこういった物はずっと残る物ですよね。「もののあはれ」とか言って、簡単に壊してしまうようなことがあってはオーナー失格です。

 こういう物のオーナーたるは、手に入れた物をどうにでも好きにしていいって訳では無く、ただ次のオーナーに手渡すまで一緒にいる時間を許された存在ってだけの事です。だから次のオーナーのために心を砕いて現状を必死で維持する。それがオーナーとなりうるべき義務と責任だと私は思うのですが、皆様はそう思いませんか?

 少なくともこの伯父にそう習いました。ただし、仕舞い込んでおくだけではなく、ちゃんと盃として使用するのが前提の話しですよ。

 ありがとう・・・伯父さん。本当に大切にします。

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