Cavalleria rusticana
火の玉ライダーと呼ばれ、ポテンシャル的には決して優れているとは言えないマシンで出来る限りの速さで駆け抜けていった男・・・タルクィニオ・プロヴィーニ・・・私たちにはイタリアの二輪模型メーカー『Protar』の社長さんと言った方が馴染み深いですよね。私は縁があって、ProtarJapanの岡部和生社長にかまってもらえる間柄となり、模型クラブ『不老隊』の隊長なんてものにも担ぎ上げられていました。
何しろこの私でさえ1967年生まれで、氏の全盛、日本の鈴鹿サーキットに来た63年の日本GPはまだ影も形も無かったのであ~る。
そして、今年の1月6日、我らのプロヴィーニが亡くなった。だれも予想してない突然の出来事でした。悲しみに打ちひしがれた岡部さん・・・私は随分心配しました。一時期、あちらからは手紙、こちらからは返信で電話をかけるといった事が、毎日のように続いた時期もありました。そのやり取りの中で、プロヴィーニの人となり、決して裕福ではない田舎出の人でしたが、その胸の内にあった騎士道精神、頓知の利いた行動を取り、周りの人を煙に撒く人柄・・・そんあ岡部さんの思い出話が続きました・・・。
今、仲間内で来年の1月6日までにプロターの模型をそれぞれ作って、プロヴィーニ御大の一周忌はそれらを持ち寄ろうという話が出ています。
私の作る模型は心の中で決まっています。プロヴィーニが最後に乗ったBenelli250/4・・・。
1963年のMotoMoriniで250ccクラスで世界ランキング2位となるが、翌64年はMoriniがGP活動を休止することとなりました。プロヴィーニにはこの時、二つの話が来ていたそうです。ヤマハのライダーとなるかイタリアのBenelliのそれとなるか。プロヴィーニはここで彼にとっては不利益となる選択をします。Benelliのライダーとなることを選んだのです。「胸の内の愛国心がそうさせた。」と後に岡部さんにプロヴィーニ自身が言われたそうです。プロヴィーニは自分の乗るBenelliのマシンをつや消しグレーの爆弾の塗料で塗装します。「爆弾に火の玉が乗るんだ!!」スクリーンとカウリングの段差にはビニールテープを巻いて空気抵抗を少しでも無くそうとする。ゼッケンの横に小さな丸を書く。「Buco del culo(尻の穴)だ。ちんたら走っているとここに突っ込むぞ!」と笑いながら話されたそうです。
昨日のことです、一周忌のことで仕事の合間、岡部さんに携帯電話を架けていた時、
岡部さん:「この前、テレビでイタリアの教会の事をやっていたんだけど、教会にねシンプルな丸があるんですよ・・・窓だそうなんだけど・・・それをね『神の目』って言うらしいんだ。プロヴィーニはこのことをもちろん知っていてさ、わざと逆説的な意味で『尻の穴』なんて言っていたんじゃないかなって今頃になって気が付いたんだ。」
私:「そうですよね、プロヴィーニさんらしいですよね。」
岡部さん:「いつもこんな具合なんだ。本当のことを最後まで言わないで・・・でもね・・・昨日夢の中にプロヴィーニが出て来てね、笑ってたんですよ・・・。」
その懐かしむような、嬉しそうでもありちょっと切ない岡部さんの言葉に、不覚にも熱いモノがこみ上げてきました。それを悟られないように早々に話を切り上げ電話を切ってしまいました。
プロヴィーニ自身、台頭してきた日本車に負けじと人馬一体となり奮起したこの時代。マシンに施された、まるで自らを背水の陣に置くが如くのカラーリング。自分で考えうる良い効果の出ることはすべてやろうと貼ったビニールテープ、ゼッケン横の『尻の穴』マーキング。プロヴィーニの執念、岡部さんの思い、これらを私が理解し、この手の中で表現することができるであろうか・・・。
今日のBlogの題“Cavalleria rusticana”とはピエトロ・マスカーニ作曲のオペラの題名です。意味は「田舎者の騎士道」となります。映画“レイジング・ブル”のテーマ曲となったのは、このオペラの交響的間奏曲で、あのカラヤンも愛した美しく切ない曲です。
後にプロヴィーニは、イタリア政府よりカバリエレ勲章を送られ本物のカバリエレ(騎士)となったのです・・・。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント